DIRECTOR’S
MESSAGE ごあいさつ

BIWAKOビエンナーレ2022開催に向けて

アートがもたらす感動には、国境がない。
人類や地球の起源を考えるきっかけを、琵琶湖のほとりで。

今年で10回目を迎えるBIWAKOビエンナーレ2022。初回の2001年から4回目までは、3年に1度のペースで開催し、今年で10回目となります。前回2020年は、コロナ禍の中で不安を抱えての開催。海外作家がひとりも来日できず、作品のみ輸送いただき、こちらで全て設営するという前代未聞の開催となりました。また通常ならばフランス在住の芸大生たちが、インターンとして来日し、会期の3か月間をともに過ごすのですが、それも無論無理になり、これまでにない寂しさも味わいました。またコロナ禍の中での開催に、どれほどのクレームがくるのかと恐れもありました。蓋を開けてみるとクレームは1件もなく、むしろこのような状況の中で開催してくれてありがとう、という感謝の言葉をたくさんいただき感無量でした。思い起こせばこれまでにない多くのことを経験し、深く心に刻まれる開催となりました。

さすがに2022年には、晴れて開催できるだろうと思っていましたが、なかなか状況は好転せず、形を変えて出現するウイルスに未だ世界は悩まされています。さらにロシアのウクライナ侵攻という大きな悲劇も...。2つの大戦のあと、冷戦時代の核戦争をなんとか回避できたというのに、21世紀の今、このような事態に陥るとは、誰が想像できたでしょう。

BIWAKOビエンナーレを始めた理由のひとつに、有史以来争うことをやめない人類が、なんとかそのカルマを克服し、同じ種族同士が殺しあうことをやめる時がきてほしいという思いがあります。21世紀の幕開けがそうした時代へと向かう出発点であってほしい、と淡い期待を抱いていましたが、その期待は無残にも打ち砕かれてしまいました。

国同士が己の利益のために起こす争いの度に、国民は翻弄され悲惨な目に遭います。どちらの国にとっても、勝ち負けに関係なく同じく苦しむのは、そこに生まれ生きる人々です。

しかしそもそも地球は、人類のものなのでしょうか? 私たちが勝手に定めた国境など、地球上に実在するでしょうか?動物や植物たち、人類も例外なく、地球は自身の命を産み育んでくれる大切な母です。人類は、このような類まれな美しい星をどうして痛めつけようとするのでしょうか?地球も含め遠くその“起源”をたどれば、銀河系宇宙の誕生に帰するでしょう。とすれば、一見バラバラに見える私たちも起源を同じくし、すべてのものは同じところから来ているのだと理解できるのではないでしょうか?

それを最もよく理解しているのは、アーティストたちのような気がします。創造という、他の種にではなく唯一人類に与えられた貴重な資質。人間1人1人の心の奥深くに通底する魂を呼び覚ますことができる存在、それがアーティストなのです。美しい音楽や芸術に感動して流す涙に、国境などあるはずがありません。地球そのものの存続さえ脅かす核を保有してしまった人類が、今後も母なる地球とともに生きていくことが許されるには?非力とも思えるアートが、実のところ人類にとって大きな存在であると、私は確信しています。

今回のテーマである“起源”は、ロシアのウクライナ侵攻が起こる前に決めていましたが、改めて私たち人類の起源、そしてその母である地球の起源を考えるきっかけになればと思います。そして愚行を繰り返す人類にとって一条の光となりますよう、決して諦めることなく、その起源となった思いにも立ち返り、BIWAKOビエンナーレ2022を開催したいと思います。2022年の秋、琵琶湖のほとりで皆様の笑顔と出会えますように...。

総合ディレクター 中田 洋子

ディレクタープロフィール

中田 洋子 / NAKATA YOKO

京都に生まれ、2歳より滋賀県大津市で育つ。関西学院大学文学部美学科卒業後、同年、1980年ニューヨークに留学。1985年から1995年、マニラで事業を展開。1995年フランスに移住。故郷滋賀の豊かな歴史・文化・風土が失われていくことへの危惧を感じていた中、古い町並みを生かし、伝統文化を守りながら新しいものを融合させていくヨーロッパの街の在り方に感銘を受ける。2000年、エナジーフィールドを立ち上げる。フランスを拠点に世界各国のアートを見てきた経験を生かし、二拠点生活を送りながらBIWAKOビエンナーレを開催。2017年11月、完全帰国。時に残酷で利己的な側面を持つ人間。そんな人間の最も美しい側面は創造性と探求心であるとの信念のもと、現在も精力的に活動を行う。